年末のNHK紅白歌合戦に出場した3人組グループの「Number_i」やその所属事務所である「TOBE」に対する誹謗中傷をXに投稿したとして、化粧品を販売する会社「リージュ化粧品」が1月3日、問題となったXの投稿を削除したうえで「不愉快な思いをさせてしまい申し訳ございませんでした」と謝罪した。
リージュ化粧品はXで、紅白歌合戦に出場した「Number_i」について、他のX利用者の投稿を引用する形でグループに対する批判的なコメントを投稿。その内容が「Number_i」のメンバー3人が以前所属していたジャニーズ事務所(現SMILE―UP.(スマイルアップ))を退所して活動していることに対する書き込みとみられ、批判が集中していた。
これを受けてリージュ化粧品は1月3日に投稿を削除。5日には「Number_i」と「TOBE」を宛名にした謝罪文を掲載し、「今回不適切な投稿をしたことに対する責任を取るべく、弊社は廃業することとさせていただきました」と公表した。
今回のようにSNSで誹謗中傷に当たるような投稿をした場合、投稿を消したら損害賠償の額が低くなるのか。また、問題の投稿を残し続けた場合と削除した場合とで、その後の法的な責任の重さに違いが出てくるのか。
ネット上の誹謗中傷に詳しい清水陽平弁護士に聞いた。
●できればパソコン上の閲覧、表示で証拠を確保
ーーSNSで誹謗中傷などを受けた人が証拠を確保する上でのポイントは何でしょうか?
責任追及をしたいと考えるのであれば、少なくとも問題の投稿がされている状況が分かるスクリーンショットや印刷物などが必要になります。
どこの誰が投稿したものか分かっているのであれば、証拠確保においてそれほど神経質にならなくてもよく、タイムラインを表示している状況を保存したものでも対応は可能です。
ただ、いつ投稿されたものかが分かるとベターといえ、SNSであれば問題の投稿を個別に表示させて投稿日時が分かる形がよいでしょう。
他方、どこの誰が投稿したか分からない場合、責任追及をするためには、まずは相手の氏名や住所などを明らかにするため、発信者情報開示請求をしていく必要があります。
この場合、URLと投稿された日時が重要になってくるため、問題の投稿を個別に表示させて保存するとよいです。
スマホやタブレットのアプリで閲覧しているとURLが分からないため、できる限りパソコンから表示し、PDF印刷をするとよいと思います。
●投稿が削除されても損害賠償請求は可能
ーー投稿主が炎上した誹謗中傷などの投稿を削除した場合でも損害賠償が生じますか?
投稿を削除したとしても、投稿をしたという事実を消すことはできません。
したがって、その内容が不法行為に当たるようなものであれば、損害賠償請求をすることは可能です。
ただし、それをするためにはやはり証拠が必要になるため、実際に投稿されていたことが分かるスクリーンショットやPDFが必要になってきます。
●投稿を残し続ければ賠償額が増える可能性も
ーー問題となる投稿を残し続けた場合と削除した場合とでは、その後どのような差が出ますか?
投稿を削除しても責任追及はできるわけですが、投稿が残り続けていると、その間に損害が継続的に生じると評価することができます。
そのため、その分賠償額が高くなる可能性があります。
ただし、日本における賠償額はそれほど高くないことから、削除されないことによって大幅に賠償額が上がるかというと、そういうわけではありません。
また、賠償額は最終的には裁判官が決めることになりますが、削除した場合と削除していない場合とで、賠償額がどのくらい変わるかについての定量的なデータはないのではないかと思われ、賠償額への反映が実際にどのくらいされるのかは裁判官次第となると思います。
【取材協力弁護士】清水 陽平(しみず・ようへい)弁護士インターネット上で行われる誹謗中傷の削除、投稿者の特定について注力しており、総務省の「発信者情報開示の在り方に関する研究会」(2020年)、「誹謗中傷等の違法・有害情報への対策に関するワーキンググループ」(2022~2023年) の構成員となった。主要著書として、「サイト別ネット中傷・炎上対応マニュアル第4版(弘文堂)」などがあり、マンガ・ドラマ「しょせん他人事ですから~とある弁護士の本音の仕事~」の法律監修を行っている。事務所名:法律事務所アルシエン事務所URL:https://www.alcien.jp